名画との不思議な出会い 「発掘された肖像」 後 記 (1985年10月)
























 独立して15年目になるが、最初から今のような画廊の形態をとっていた訳 ではない。それまでの現代美術中心の仕事に自信を持てなくなっていたこと もあり、石油ショックの頃には険しい画商道に暗中模索の状態であった。その頃ふと通りかかった古道具屋の片隅で出会った1枚の油絵が、私に画商として進むべき道を方向づけてくれた。京都洋画の先達、田村宗立の筆になる田舎の夕暮れを描いたこの絵も今は手許に無い。けれどもそれは、現在しか見ていなかった自分に、過ぎ去ったものや忘れられたものへの関心を呼び起こしてくれた大切な作品として脳裏に刻み込まれている。
 8年前から始めた「忘れられた画家シリーズ」は、私のライフワークとてこれからも続けられるであろう。この画人再発見の過程で、存命中に一流画家として活躍しながら死後時の経過とともに忘れられたもの、画業半ばで逝ったもの、力量ありながら全く不遇のうちに人生を終わったもの、種々のケースに出会いながらも私は画家を羨む。画家にはどのような場合でもその死後作品が遺る。画商には何があるのか。結局はあの展覧会をした、この作品を扱ったという自己満足しかないのではないか。だったらせめてそれを活字で後世に遺せたらと思う。何十年か後になって、誰かが何処かの古本屋で山 積みにされた本の下からこの図録を見つけて、昭和60年頃に変った画商がいたんだなと、今の私が僅か数ページの昔の展覧会目録から先人の遺業を偲ぶように、思ってくれることを願う。

星 野 桂 三























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