「動物たちと芸術家」展 後記




























































 このところ地球環境の破壊とか自然保護の問題が喧しく取りあげられるようになった。グリンピースなる団体により日本の捕鯨漁業が槍玉にあげられて以来、イルカの大量虐殺、底引き漁船による魚類の大量捕獲など主に日本漁業の問題が話題になってきたようである。そこへ焼畑農業などによる熱帯雨林の破壊、地球規模での工場排煙や排気ガスなどの急増化が複合原因となったオゾン層の破壊、日本の建築ブームによる東南アジア諸国での森林伐採とそれにより引き起こされた度々の大洪水、もう人間達が文明という美名のもと享受したはかなき快楽のつけが、ここに来て一挙に吹き出してきたように思える。

 私達がワシントン条約という名を頻繁に耳にするようになったのは、それ程昔のことではない。「絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取り引きに関する条約」という長ったらしい翻訳があるワシントン条約、その存在を私達美術業界の人間が一挙に身近に思える出来事が象牙の輸入禁止であった。古来、象牙による掛け軸の軸先は「牙軸」として珍重されてきた。牙軸が付いた表具はいい表具という信仰にも似た考えが主流の業界ゆえ、もう作れないという噂が業者間にあっという間に駆け巡り、象牙による軸先の相場が跳ね上がった。素人さんたちには信じ難いことかも知れないが、絵描きの描いた作品がいったん画家本人の手から離れると、表具代や額代以上に市場で売れればそれは一人前と皆は思っている。へっぽこ絵描きのくだらない絵がどんなにこけ脅しの衣装を身にまとっても、いざとなれば身ぐるみ剥がれてポイ。表具が良いから額が良いからポイ。そして牙軸が付いているから今度もポイ。そんな感じで古い表具から剥がされたのが牙軸だけのひと山が競売にかけられる。誤解のないように付け加えておくが、本当に良い絵はたとえ衣装がみすぼらしくても見る人が見れば判るしまた売れる。

 ちょっと話が脱線しかかったが、象牙は印鑑の主材料でこの業界でもきっと困った問題になっていることだろう。ウミガメを材料とした伝統的なべっ甲製品の業界もまた然り。また最近の海外旅行ブームのおかげで、日本各地の税関倉庫にはワシントン条約にひっかかり所有権を放棄されたトラやヒョウなど動物の毛皮や剥製から、サンゴの置物、ウミガメ、アルコール漬されたイグアナ、象牙工芸品、とにかく相当量のものが保管されているという。金満日本の一面を象徴するようなことであるが、大きなワニが下水で見つかり大騒ぎになったり、熱帯産のヘビが山の中に放棄されたり、家庭で飼われていたらしい猿が町中で暴れてみたりと、この国では同種の騒ぎが尽きない。

 ワシントン条約の第8回締約国会議が日本ではじめて京都で開催される。3月2日から13日まで開かれる国立京都国際会館での同会議には、世界中から政府関係者、自然保護団体やユネスコなど国際機関や、象牙、皮革産業など関連の業界も含め約千人が参加する。この会議に会わせて京都府では「いのち賛歌−日本画百人展」を開催する。さて私達の画廊でも会議開催の趣旨に賛同し、自分達なりに自然保護の大切さをアピールすることを目的に本展を企画した。実は私達は画家たちに限らず彫刻家や陶芸家を含めて「芸術家と動物」のテーマで作品展示をする意図をもってこれまでコツコツと該当する作品を蒐集してきた。思いがけなくワシントン条約の締約国会議が京都で開催されることになり、その開催時期が早まり準備不足で少し不満が残るものの、まあおもしろい展覧会になるだろうと思う。

星野桂三・星野万美子





























































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