「須田剋太1959−1960展」後記






























 須田剋太先生が司馬遼太郎「街道をゆく」の挿絵を描き始められた1971年に、私は勤めていた画廊を辞め独立した。それより以前の数年間、春秋の画廊企画展のための作品を頂きにお宅にお伺いした。一見乱雑な物や作品で埋めつくされたアトリエで、特製のつなぎの服を着た先生の柔和な語り口と笑顔がひときわ印象的であった。爾来16年、御活躍の様子を見聞きしたり街でお見かけしたりはしても、面と向かってお会いしたことはない。

 なのに何故いま須田剋太展なのか? 普段の画廊企画の枠組みからはずれたような本展に疑問を持たれる方も多いことであろう。けれども画商としての出発点を1960年代の抽象芸術華やかなりし頃に置く私にとって、今日言う処の現代美術とはひと味違う、作品の製作側と見る側とが一体となって躍動していた時代に回帰させてくれる現代美術との遭遇は、夢でもあったのである。忽然と現れた1959-1960年に制作された須田先生の一群の作品は、長い間私の心にくすぶっていた飢えを癒してくれた。

 須田先生のおっしゃる「宇宙的真理」とは何か、私にはよく判らない。当時、禅精神を具現しようと絵筆に託された作品が、30年近くの時空を超えて私の画廊に甦る。「美」とはそんなものではないか。無心に作品を眺めて「美」を感ずる時、その時は真実である。それで良いのではなかろうか。

星野桂三・星野万美子































このウインドウを閉じる

Copyright (C) 2003 Hoshino Art Gallery All Rights Reserved.