洛北の四季を描いて50年「伊藤泰造展」後記









































 「梅原龍三郎の薔薇図など絵画23点盗難!」と大々的に報道された去る1月19日の前日、つまり画廊の定休日の月曜日の夕方に私は伊藤先生の御宅にお邪魔していた。多分その頃には既に憎むべき盗人達の手によって画廊は裳抜けの空だったはずなのだが、勿論私達はそのことを知る由もない。3月初旬に開催するはずだった本展の最終的な打合わせと写真撮影を済ませ、数日中に作品選定の為の再訪を約して辞した。そしてその翌日の盗難事件の報道。事件は当事者の私にとって衝撃ではあったが、91才という御高齢の伊藤先生にも大変な心労をお掛けしたのではないか。事件後の対策などの雑用にとり紛れて展覧会は自然に流れてしまったが、そろそろ準備を再開しようとしていた矢先に盗品23点のうち梅原作品を除いた22点が無事発見された。その時、事件後初めて伊藤先生からお祝いの電話を頂戴した。その日までの40日間、先生が文字道り息をつめるように御心配されていたことが私には判っていただけに、お元気な声を耳にして妙にほっとしたものだった。

 伊藤泰造展はもう何年も前から気にかけてきたもので、愛蔵家が何かの都合で手放した作品を見かける都度買い求めてきた。そのうち私が何点もご自分の絵を蒐ていることを入伝に知らされた先生が画廊にお見えになり、いずれの日にか展覧会を開きましょうとの話はしていた。とはいうものの、いつもは制作者の了解を抜きにしての物故の方々の作品展をやり慣れている私にとって、現存の作者を意識しての展覧会企画は億却なもので、ついいつ時が過ぎ去ってしまった。一昨年思いきって、卒寿記念展をやりましようともち掛けた時には、お弟子さんの方々による企画が先行していてがっかりしたものだった。

 「画商さんに声を掛けて頂いたのは初めてです」と喜んでくださる先生がお元気なうちにと、去年の卒寿記念は私の心の中ではなかったことにして本展を企画した。やるからには自分の好きな作品を並べさせて下さいとお願いして選び出した50点強の作品と、私の手持ちの作品とでレイアウトした本図録。盗難事件の後遺症が残る中での作成のため不満なところは多々あるが、伊藤泰造芸術の一端でも後世に伝えることができれば幸いである。

星野桂三・星野万美子









































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