詩想・幻想から勁き思想へ「鳥毛将宏1988展」後記









































 1988年は画家鳥毛将宏にとっても私の画廊にとっても激動の年であった。休み明けの1月19日の朝のことは一生忘れることは出来ないだろう。長い年月を掛けて蒐集してきた私共の画廊に誇る名作達が殆ど残らず、飾られていた画廊の壁面から失せていたのである。眼前の出来事が信じられないとはそれまで比喩としては知っていたが、文字通り実感できたのは幸せなことであったのかも知れない。ともかくも警察の捜査班や報道の取材陣が引けた頃、テレビで事件の第1報を見た家族に叩き起こされた鳥毛将宏が画廊に駆けつけてくれた。散乱した空額を始末する元気も無く、どういう訳かエアコンの配線が盗人達に切断されていた為に、それでなくても寒々とした心に急拠引張り出した石油ストーブの炎はあまりにも細すぎたのだが、ショックで青ざめた鳥毛の見舞いに多少の冗談を投げかける余裕のようなものも出来ていた。盗人達は何を血迷ったのか巨匠達の絵と共に事務所に掛けてあった鳥毛の絵をも4点盗み出していたのであった。私達としては、同じことならもっと出来の良い鳥毛作品を盗って欲しかった。だがこの盗難事件は彼の創作意欲を大いに刺戟したものらしく、その意味では私達には有難いことであったといえる。

 鳥毛将宏にとってもう一つの大事件は我が子の誕生であった。生命を、人生を、社会を見つめ直す好機となり、次々と力作を生み出す原動力となったのは否定できないだろう。

 もうこれだけで1年の出来事としては充分なのに、10月18日の未明にアトリエが火事に見舞われ、小火(ボヤ)とはいえ画材や作品の殆んどを失ったという。本稿を準備中に事故の報を本人の電話で知らされ絶句してしまった。この図録に掲載された作品が、各々完成直後に私の画廊に持ち込まれていた為無事であったのは、不幸中の幸いと言うべきか。

  という訳で、鳥毛将宏1988展は文字通り鳥毛将宏と星野画廊の激動の1年の回顧という性格を持つものとなってしまった。禍福糾(あざな)われるものならば、今度はきっと良いことがあるはず、本展が評判を呼び成功裡に終わることを祈りつつペンを置く。

星野桂三・星野万美子









































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