明治・大正・昭和「静物画コレクション展」後記












































































 なにかよい話はありませんか・・。口を開けばあの画廊が倒産しただの、どこそこの画廊が危ないと画商たちの挨拶は暗い。私たちが1年半ほど前から危惧していたことが現実となっただけのことだが、それにしてもイトマン絵画疑惑は私たとの想像を絶する馬鹿馬鹿しさである。傾きかけた商社が怪しげな人物に徹底的に絞りとられた図式だが、貧すれば鈍する、端から見ればなんでこんなんにひっかかったのやろうという程度。ただ金額が我々庶民の感覚では計りしれない凄さであったから、唖然、呆然としてしまうのである。もうひとつ、いわゆる三段腹のルノワール疑惑に登場する宗教団体とその名誉会長の裏金作りの疑惑。これまで一部専門家の間で噂されていたものが、とうとう表面に浮かび出てきたのである。またいつものように政治家たちが裏でうごめいてうやむやにしてしまうのであろう。ああ、いやだいやだ。

 今思うと日本人の歯車が狂い出し金権主義に移行しだしたのは、あのNTT株売り出しの頃からではなかったろうか。株をやらない私たちは狂い咲きする日本の状況を比較的クールに、時には指をくわえて、眺めてきた。株が高騰を続け、土地やマンションの投資ブームが絵画投機に移り始めた。金貸しや地上げ屋が次々と画廊を開いて不動産を扱う感覚で絵画をキャッチボールし始める。儲かると煽られた素人ばかりか玄人たちまでが浮かれまくったのである。株や土地が下がれば当然のように絵画ブームも終わる。幸か不幸か、アウトサイダーだった私たちにはそのことがはっきりと予感できた。私たちが身を粉にして1年働き詰めでようやく手にする利益を、僅か1点の絵画を右から左へ移動するだけでひねりだすことが出来たのであるから、画商とは余程ボロイ商売、画商と言えば何かうさん臭い成金の匂い。ひと頃テレビドラマに登場するヒロインやその相手が画廊経営者であったり画商であったりしたのも、そんな得体の知れないところが軽薄なテレビドラマに似合ったのかも知れない。けれども不思議なことに、私たちの画廊の売上は、世間とは反対に増えるどころか下がり始める傾向が見られたのである。これは良識ある美術愛好家が美術品を買うのに嫌気がさしたのか、或いは金権主義に毒されたと思われる。そんなこんなでブームに取り残された感のある当画廊には、変わらず頑固な画廊主が鎮座して、これまたブームを無視した本当の美術愛好家の方々が訪ねてくれるのを待つという図式が続いている。

 さて今回の展覧会は、裸婦、花、板絵とテーマ別にシリーズ的に開いてきたコレクション展である。我が国の近代洋画史を、描かれた「静物画」により辿ってみれば面白いなあと思いついたのは、もう何年も前のことになる。時代や流行を象徴する静物画で展覧会を構成すれば、と思ったのだが、これがなかなか蒐まらない。そうこうするうちに一昨年、静岡県立美術館で学芸員の井上さんの企画による「静物」展に先行されてしまった。これは学術的な考察を踏まえた好展観であった。やはり組織力のある美術館とは競争にならない。借物では済ませられない私企業である画廊としては、ここは近代美術史を振り返るなどと気取らず、蒐めた「静物画」を滅多矢鱈とならべることにした。各作家の代表作とは言えない小品が殆どだが、小品でなければの魅力のある作品が多いと自負している。また、新発見で評判を呼ぶ作品も少しはあると思う。問題は展示スペースが狭いため前期(明治から大正の作品を中心に展示)と後期(昭和の作品を展示)の2本立てでやらねばならないことだ。前・後期を通してご覧頂くと64人の洋画家による66点の静物画を楽しんでもらえるが、展覧会が多すぎるこのご時世、そこまでして観て頂ける奇特な方は少ないことは覚悟している。

 それにしても近頃の展覧会の多さに辟易しているのは決して私たちだけではないだろう。もしも仮に、百貨店の美術館と称するホールなどでの人寄せの展覧会が数ヶ月に1度しか開けなかったり、公立美術館の企画展が半年かせめて3ヶ月に1度しか開催できなかったりする法律が出来たら、どんなに有り難いことだろう。この忙しい世の中であればなおのこと、準備に充分時間を掛けた良い展覧会をゆっくり楽しみたいものだ。入場者の数で展覧会の優劣を競い合う、そんな馬鹿げたことも止めて頂きたい。人口密度の少ない地方の公立美術館で最近目立つ好企画展が、僅か数千人から1万人程度の観客しか呼べないことを、私たちは非常に残念に思う。そういう展覧会を大都会に巡回展示して欲しい。金や太鼓で囃し立てて上底の美術愛好家を増やすから、浮ついた美術ブームなどが起こるのである。

星野桂三・星野万美子












































































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