「戦後絵画20年の軌跡〜拾遺編〜」展 後記 | ||
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戦後の再出発の筆頭の作品にはどうしても北脇昇の「秋の驚異」に登場してもらいたかった。一面焼け野原となり荒れ果てた日本の国土、そこにしっかりと大地を踏み締めて立つ一本の木。枝も葉ももぎ取られた姿は戦後復興の未来を予感させる力強い人間の姿とダブる。本図録ではその後しばらく人間を直視した作品が続く。画家たちは問う、戦中抑圧されてきた人間の本来の姿とは……、そして人生とは……、そのような画家たちの悩みや想いが素晴らしい絵画作品となって戦後続々と生まれてきたのである。次に画家たちの眼は自分たちの周囲の風景に挑戦していく。そこにはかっての絵画常套の手法や描き方から解放された喜びがあった。やがてそれが燃える魂の表現ともいうべき熱い抽象の世界へと突き進んでいくのは、もはや必然であったと思われる。 このように見ていくと一見難しそうに見える抽象もちょっとは身近に感じて頂けるのではないのだろうか。どの作品にも私たちが共感できる“心”が共通項としてあり、それらを理解するのは理屈ではなく感覚であると思う。ただそこ感覚を養うために数多くの作品に接しなければならないし、そこにこそ私たち画廊主の使命があると思う。多くの場合画家たちは寡黙であり作品を通して訴えようとする。饒舌からは空虚な作品しか生まれてこない。ときには画家たちの思惑とは違った受け取り方をされてしまうかも知れないが、それでも良い。自由に描かれたものは自由に観賞される運命にある。ただそこには少しの指針と適当な場というものが用意されて然るべきなのだ。画廊や美術館の展覧会はそういう場を提供するに過ぎないが、企画者のある意図なり思いなりが反映されるはずのものである。私たちの今度の展覧会に用意した作品は、必ずしもそれぞれの作者の代表作を選抜したものではないが、年月を経て光り輝いている。たとえ彼等がその後どのような作風に変容したとしても、“この1点”という意味では見応えがあると自負している。
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