京都市動物園開業110周年を祝って
ー画廊に棲まう動物たち(日本画・洋画の名品選)ー

  【後 記】・・・・・・・・・・ 星野桂三

 お猿さんが運転台の屋根に乗った汽車ぽっぽ。ぐるぐると大空を廻り続ける回転飛行機。動物たちとの触れ合いより身近な遊園地としての動物園に浸った幼少時だった。あの頃はあんなに広くて混雑していたはずの動物園だったが、年を重ねるごとに園内が急速に狭く感じるようになった。とはいえ動物たちとはより近しくなっていった。家内はまだ幼い娘を連れて訪れた園内で、子象がゴミ箱をひっくり返しながら散歩している光景に出会ったという。今でも懐かしい思い出のひとつとしてよく話題に出る。あの頃はサル島にサルの群れと共にたくさんのイノシシが共存していた。アシカの賑やかな吼え声を背にしてサーカスさながらに遊び回るサルたち。時間を忘れて眺めていたものだ。象の園舎はいつの間にか1頭だけになり、サル島からの歓声も少なくなり徐々に京都市動物園からは足が遠のくようになった。その代わりにパンダなど珍しい野生動物たちとの出会いを求めて、神戸市の王子動物園や南紀白浜のアドヴェンチャーワールドなどの遠方にわざわざ出かけるようになっていった。
 嬉しいことに最近は近場の京都市動物園に出かける機会が増えてきている。開業110周年を控えて3年前から「京都市動物園構想」に基づく施設の再整備工事が始まってからだ。ふれあい広場「おとぎの園」に続き去年春にはライオン、アムールトラ、ジャガーの新しい展示施設「もうじゅうワールド」がオープンし、動物園に俄然大人たちの姿も多く見かけられるようになった。お産上手なアミメキリンのカップルも来園者の増加に貢献している。6月には赤ちゃんの誕生が期待されている。今春、「アフリカの草原」と熱帯で暮らす多様な「いきもの」を展示する「ひかり・みず・みどりの熱帯動物館」がオープンする予定だ。京都大学野生動物研究センターとの連携作業により、チンパンジーのお勉強の様子が観察できたり、昨年12月国内の動物園では初となるニシゴリラの赤ちゃん(ゲンタロウ)が誕生し、その成長過程と父モモタロウのイクメン修業の様子も間近に見られる。先日は新たにチンパンジーの赤ちゃんが誕生したことも話題になった。開業110周年を迎えて、京都市動物園は狭い敷地にも拘らず、関係者が様々に智恵を出し合いより魅力的な動物園へ変貌しつつある。そこで近くに店を構える私たちとしてエールを送るために考え出したのが本展である。
 もう20年も前になる1992(平成4)年の3月に、当画廊に於いて“ワシントン条約締約国会議京都開催に寄せてー「動物たちと芸術家」展”を開催した。同条約の正式名は「絶滅のおそれのある野生動物の種の国際取引に関する条約」である。その後絶滅危惧種の輸出入が厳しく制限されるようになったのは周知の如くである。現在国内の動物園は相互に連携して、希少動物を期限付き貸借などで補充するために智恵を出し合っている。たとえば前述のニシゴリラ「モモタロウ」は上野動物園から2010年京都市に婿入りした。京都市のアミメキリンは2009年に千葉市動物公園へ1頭、11年に大阪のみさき公園へ1頭嫁入りした。10年に生まれたアムールトラ3頭のうち、1頭が浜松市動物園へ、1頭が福山市動物園へ婿入り。11年にレッサーパンダのメスが1頭、周南市徳山動物園から嫁入り。09、10年とチンパンジー5頭が熊本県宇土から受け入れられて、今年2月にオスの赤ちゃんが誕生したところだ。グレビーシマウマは09年にオス1頭が千葉動物公園から婿入りしてメスの「キララ」が10年に誕生、反対にメス2頭がいしかわ動物園と姫路セントラルパークに繁殖のために期限付きで貸し出されている。
 動物園を子供たちのための施設と決めつけてはいけない。ご存知のように京都には美術系の学校が多数存在する。西村五雲、山口華楊、竹内栖鳳ら著名な日本画家や須田国太郎らの洋画家たちを筆頭に、開園以来園内で動物を写生する画家たちが大勢いたことを忘れてはならない。本展で紹介する作品の中にも京都市動物園での写生の成果が数多く見られる。中でも病魔に冒されながらも絵筆を執り続けた幸田暁冶は、鳶、禿鷲、駱駝、象亀、孔雀、ライオン、えみう、象、ワニ、ダチョウなどを主題にした絵を次々に展覧会に出品して画家としての盛名を確保した。25歳で夭折した天才画家・稲垣仲静の遺品の中には数多くの動物画のスケッチが遺されている。先の遺作展(京都国立近代美術館、2010年)ではその一部が紹介されただけなので、今回は出来る限りの作例を紹介している。的確で清明な画風で知られる岡村宇太郎の動物画を同時期に並べることにした。現在日本画家を目指している若者たちには少なからぬ刺激を与えることになるだろうから是非身近で観て頂きたいものだ。
 限られたスペースしかない画廊のこと故、第一期、第二期展では、適当な時期に展示替えをしなくてはならないことも許して頂きたい。久保田米僊の六曲屏風<猛虎図>は巨大なサイズだから展示することも出来ない。替わりにと言っては何だが、幕末に会津藩の本陣が置かれた黒谷金戒光明寺には久保田米僊が描いた襖絵<龍虎図>がある。特別公開中には是非ご覧頂きたいと付記しておく。
2013(平成25)年3月  

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