大政奉還150周年記念展
新発見!《戊辰之役之図》
鳥羽伏見の戦い勃発の夕、京都御所では何が起きていたのか
〘150年目の証言〙併催「明治美術拾遺選Ⅱ」
2017年9月30日(土)〜10月29日(土)

【編集後記】・・・・・・・ 星野桂三

 2013(平成25)年2月、とあるオークションカタログで本作を見かけた。小さな図版で常時1,000点以上の作品が掲載されており、いつもは興味本位でペラペラと頁をめくって眺め、ゴミ箱へポイ。そのようなことの繰り返しだったが、その時は違った。何か異様な群像を描いた絵に目が止まったのだ。作者名は小波魚青とあるが、全く未知の人物。ただ絵柄が私の興味を惹いた。<戊辰戦争図>の題名と第3回内国勧業博覧会褒状の注があった。小さな図版(約4×5cm)をルーペで詳しく調べてみると、何かとんでもない場面が描かれていることに気がついた。「これは買い」のシグナルが頭に灯り、落札予想価格帯の表示を無視して高額の入札で応じた。めでたく落札後、しばらくしてから作品が画廊に届いた。先ずは実際に見る巨大な画面(額装共で80×180cm)に驚かされ、更には描かれた人物像の巧みな表現にも感嘆させられた。保存も極めて良かった。これほどの群像を立派に描ける画家が、その後全く世間に知られずに埋もれてしまっている。この作品は埋もれた作家と作品の発掘顕彰に努めている京都の星野画廊に辿り着いた、まるで運命の糸に導かれている、そんな気がしたのである。

 「明治紀元正月三日夜、公家御門で見た光景を写した真景図」とある画面左下の表記(11頁参照)に注目した。戊辰戦争の発端となった鳥羽伏見の戦いが始まった150年前、その夜の光景だというのだ。日本中を揺り動かす歴史的事件の「証言」として、本作がそのうちに世間を騒がせ、重要作品と認知されることを私はその時に確信したのである。 

 それからしばらくは、絵と作者の調査を進めることにした。手許にある『内国勧業博覧会美術品出品目録』(東京国立文化財研究所編)の中に該当する作品が見つかった。次に全く知らなかった画家、小波魚青(こなみぎょせい)の調査を始めた。本図録に玉稿を頂戴している高木博志先生や、小波が晩年を過ごした長崎市の長崎歴史文化博物館の五味俊晶先生らと連絡を取ってご意見を伺うことで、幕末維新の歴史的経過の中に占める本作の貴重な存在価値がより鮮明に浮かび上がってきた。後は、本作を何時どのような形で発表するのか、ゆっくりと時期を見極めることにした。

 今年は京都市の音頭取りによって「大政奉還150周年記念プロジェクト」が全国各地で進行中である。発表するならこの年を逃してはならないと目標を定めた。今年6月から7月初旬までに開催した「生誕130年・秦テルヲの生涯」展でエネルギーを使い果たしたようになっていたが、気力を振り絞って本展準備に本格的に取りかかったのが7月末のことである。

 本作と並陳する明治期の作品は、数ある画廊所蔵品の中からあれこれと選別したものである。本展では特に肖像画の優品を揃えて紹介することにした。当画廊で度々開催してきた展覧会、「発掘された肖像」展(1985=昭和60年)、「明治絵画拾遺選」(1998=平成10年)、「明治の肖像」展(1995 =平成7年)、そして「群像の楽しみ方」展(2010=平成22年)などで既に紹介したものも多いが、その後入手した作品を加えて構成を新たにし、「明治絵画拾遺選Ⅱ」とした。その結果、企画者の私さえもが、思いもかけない作品の新たな魅力を新たに発見する次第となったのである。伊藤快彦<老女像>(32頁)とその解説文(33頁)で触れたことだが、今年全国4カ所を巡回している「リアルのゆくえ」展が大評判となっている。本展に並ぶ様々な絵の魅力は、その展覧会出品作に決して劣るものでないことに確信を新たにしている。

 最後に、本展開催に当たり様々に助言して下さり、<戊辰之役之図>の時代背景を簡潔明瞭に解説して下さった、京都大学人文科学研究所所長の高木博志先生、見知らぬ画家、小波魚青の研究をされている長崎歴史文化博物館の研究員五味俊晶先生からは様々に資料の提供を受けた。また小波魚青の曾孫に当たる小波盛佳氏からは魚青の貴重な写真の提供を受けた。ここに深く感謝の意を表します。

2017(平成29)年9月

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