星野画廊で開催した主な展覧会─81

よみがえる百年前の風景「今、水彩画への誘い」

11月3日(祝)〜11月29日(日)(月曜休廊)

 

展覧会趣旨

 1889(明治22)年イギリス人画家アルフレッド・イーストが訪日。明治美術会第1回例会で開いた作品展示と講演会後、続々とイギリス人画家が来日し水彩画を描き作品発表をした。刺激を受けた日本の青年画家たちが水彩画を数多く描くようになり、それらを携えて欧米へと旅立ち、彼の地でも数々の名作を生み出すことになった。1901(明治24)年大下藤次郎の『水彩画の栞』が発刊され2万部を越える大ベストセラーとなった。水彩画ブームの幕開けである。島崎藤村が丸山晩霞をモデルにした小説「水彩画家」を『新小説』に発表(1905)、同年の水彩画専門誌『みづゑ』の創刊へと続く。日本水彩画会の創立は少し後の1913(大正2)年のことだ。
 本展では水彩画ブームの端緒となったアルフレッド・イーストの貴重な水彩画を始め、浅井忠、吉田博、三宅克己、河合新蔵、石川欽一郎、丸山晩霞、真野紀太郎ら代表作の他、黒田重太郎、加藤源之助、田中善之助、霜鳥之彦、澤部清五郎、牧野克次ら浅井忠の薫陶を受けた京都派の画家達の作品を多数展示する。
他に夭折の画家青木繁の新発見となる絶筆水彩画や、最近脚光を浴びるようになった異色の水彩画家、笠木治郎吉や渡辺豊州などが揃う。同時に大正から昭和初期にかけて活躍した石井柏亭、中西利雄、小堀進、相田直彦ら重要画家の作品も併せて展観することで、我が国の水彩画の発展史を一堂に見られる企画となっている。
 今回集められた明治後期のほぼ100年前の水彩画には、明治という時代に流れるゆるやかな時間や懐かしい風景がある。画家たちの穏やかだが厳しい視線が一枚の紙に封じ込めた夢の世界だ。
【短信】
「近代の東アジアイメージー日本近代美術はどうアジアを描いてきたか」(豊田市美術館、10月10日〜12月27日開催)に下記作品の出品協力をしています。
井上長三郎「満州風景」油彩10号、谷出孝子「街角の少女」油彩60号、谷出孝子「ロバに乗る少女」油彩30号、平井楳仙「黄河」(大正3年頃作 絹本彩
色)

明治期の水彩画―幻の詩的表現  ………………  星野万美子

「いま、水彩画への誘い」展作品リスト
アルフレッド・イースト 「クールマイヨール風景」 1895-1905年頃  24.7×36.5cm
F.deLaPoer 夫人 「江ノ島」 1895(明治28)年 17.0×35.2cm
F.deLaPoer 夫人 「瀬戸内海の入口、淡路」 1895(明治28)年 17.0×35.1cm
4 F.deLaPoer 夫人 「箱根の夕照」 1898(明治31)年 17.0×25.6cm
5 F.deLaPoer 夫人 「小浜」 1898(明治31)年 15.9×25.7cm
浅井 忠 「干網」 1906(明治39)年頃 28.2×39.3cm
浅井 忠 「海辺風景」 1906(明治39)年頃 28.2×39.3cm
吉田 博 「庭園の婦人像」 1904(明治37)年頃 33.1×24.5cm
中沢弘光 「箱根」 1903(明治36)年 16.3×24.3cm
10 山田馬介 「陽だまり」 明治後期頃 43.6×56.3cm
11 渡辺豊州 「月光」 明治後期頃 32.4×48.7cm
12 渡辺豊州 「早暁帆船」 明治後期頃 32.5×48.7cm
13 三宅克己 「地中海岸」 1910(明治43)年頃 31.5×45.0cm
14 三宅克己 「箱根旧街道の杉並木」 制作年不詳 44.9×33.1cm
15 三宅克己 「武蔵里、小川の残雪」 明治後期頃 32.5×24.0cm
16 三宅克己 「森の道(湯ケ岳)」 明治後期頃 23.5×16.0cm
17 織田東禹 「舟大工(堀切付近)」 1908(明治41)年 49.3×66.2cm
18 河合新蔵 「月夜」 明治後期頃 24.3×32.7cm
19 河合新蔵 「湖畔」 明治後期頃 32.6×49.8cm
20 河合新蔵 「薮」 制作年不詳 32.4×49.2cm
21 牧野克次 「今川焼の店先」 1904-6(明治37-39)年頃 34.5×25.3cm
22 牧野克次 「黄色い日傘」 1904-6(明治37-39)年頃 29.8×20.6cm
23 霜鳥之彦 「北野の春」 1906(明治39)年 44.4×34.3cm
24 加藤源之助    「冬枯れの叢」 明治末期頃 24.5×32.1cm
25 加藤源之助 「京都風景」 1907(明治40)年 23.4×34.0cm
26 中林 僊 「風景」 制作年不詳 17.1×25.5cm
27 澤部清五郎 「富士六景より」 1909(明治42)年 24.3×33.2cm
28 黒田重太郎 「白川村」 1905(明治38)年 48.5×31.0cm
29 黒田重太郎 「風景」 1909(明治42)年 25.1×34.5cm
30 黒田重太郎  「大原の里」 1909(明治42)年 22.7×34.7cm
31 田中善之助 「物干台のある風景」 1907-08(明治40-41)年 40.8×32.3cm
32 田中善之助 「高瀬川」 1907-08(明治40-41)年 25.5×34.3cm
33 田中善之助  「農家」 1906(明治39)年 28.1×37.2cm
34 田中善之助 「安治川河口」 明治末期頃 28.1×37.5cm
35 笠木治郎吉 「蓮池」 明治後期頃 50.7×32.7cm
36 笠木治郎吉 「漁師の一家」 明治後期頃 49.2×64.0cm
37 笠木治郎吉 「老猟師」 明治後期頃 51.6×34.0cm
38 青木 繁 「旭」 1910(明治43)年 32.0×41.5cm
39 丸山晩霞 「ユングフラウ山手前の光」 1911(明治44)年 25.3×35.3cm
40 瀬野覚蔵 「舟溜り」 1918(大正7)年 32.5×24.0cm
41 石川欽一郎 「粟津の浜」 1930(昭和5)年頃 33.1×45.5cm
42 石川欽一郎 「白馬の麓」 1940(昭和15)年頃 38.0×45.8cm
43 石川欽一郎 「朝の海」 昭和初期頃 33.3×52.8cm
44 石井柏亭    「武州、御嶽より」 1929(昭和4)年 25.5×35.8cm
45 相田直彦 「新なる緑(工校附近)」 昭和初期頃  24.1×33.0cm
46 真野紀太郎    「薔薇」 1941(昭和16)年 57.2×77.7cm
47 真野紀太郎    「村の井戸(アジャンタ)」 1932(昭和7)年 28.8×37.3cm
48 真野紀太郎 「奈良、高畑風景」 1942(昭和12)年 28.8×39.0cm
49 荻野康次 「船着き場」 1940(昭和15)年 28.2×38.3cm
50 荻野康次 「中之島風景」 昭和前期頃 24.7×33.7cm
51 中西利雄 「夏風景」 1939(昭和14)年頃 38.2×56.7cm
52 小堀 進 「多度山」 1971(昭和43)年 32.3×44.8cm

記念図録  (B5版68頁)には、26人の作家による全作品52点をオールカラーで掲載。作品/作家解説エッセイ28編の他、詳細な作家経歴も掲載している。 頒 価:1500円。


  「後   記」……………………………………………… 星野 桂三


このウインドウを閉じる

Copyright (C) 2008 Hoshino Art Gallery All Rights Reserved.